松山地方裁判所 昭和25年(行)11号 判決
原告 青木石油株式会社
被告 国
右代表者 法務総裁
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は、被告は原告が高松―神戸―大阪(小豆島経由)間、八幡浜―三崎、八幡浜―三瓶、八幡浜―宿毛間の各定期航路事業を営む権利を有することを確認す、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求原因として、原告は終戦以前から高松―大阪間、八幡浜―三崎間、八幡浜―三瓶間、八幡浜―宿毛間の各定期航路事業を経営しておつたが、その後海上運送法が施行せられたので、同法に基き、同法施行日から六十日以内に昭和二十四年十月十八日附書面で、運輸大臣に対し、右各既存定期航路事業の免許を申請し、高松―大阪線の免許申請書は同年同月二十一日四国海運局により受理せられ、八幡浜―三崎、八幡浜―三瓶、八幡浜―宿毛各線の各免許申請書は同年同月二十日四国海運局松山支局によつて受理せられた。しかるに其の後同年十一月一日附で、四国海運局松山支局長は原告の各申請航路は海上運送法施行の際休止中であつたから、同法において新規定期航路と解されるとの解釈上の文通により又、同年十二月二十八日附で四国海運局長は原告申請の航路は同法の解釈適用上既存定期航路事業としては処理しがたいとの文通により原告の申請を新規定期航路事業免許申請として処理する旨申来つたのであるが、原告は之に同意したこと更になく、しかもそれは単なる解釈上の通知であつて、法規に基く行政上の却下通知ではない。而かも四国海運局長は原告申請の航路中、高松、大阪間の航路については独断で処理する権限を運輸大臣から委任されていないのであるから、原告の申請を却下したり、新規定期航路事業の免許申請として処理したりする権限を有しない。而して海上運送法施行当時は右各航路は休航していたのであるがそれは、四国海運局が甚だ不当不公平な配油計画によつて、原告会社に対して全然燃料油の配分をなさずそのため、運航の意思を有しながらも止むなく運休していたのであるから、原告は海上運送法施行当時現に定期航路事業を営む者と認むべきである。従つて斯様な原告の既存定期航路事業免許申請に対して、其れを受理した日から百日以内たる昭和二十五年一月末頃までに運輸大臣が右各申請を免許する旨又は免許しない旨の法規に基く行政上の通知を原告に対してなしたことはないのであるから、右各申請は海上運送法の規定により自動的に免許されたものと言わねばならない。仍て原告は前記の各定期航路事業を営む権利を有するのである。
然るに原告の申請が同法の規定により自動的に免許された後である昭和二十五年二月九日付を以て、四国海運局松山支局長は原告に対しその各申請は新規定期航路事業の免許申請だから申請書整備のうえ、再提出すべきであるとして、原告提出にかゝる前記各申請書を却下し、原告が正当に免許された定期航路事業を営む権利を否認したので、右権利の確認を求めるため本訴に及んだと述べた。(立証省略)
被告指定代理人等は、主文同旨の判決を求め、答弁として、原告主張事実中、原告がその主張の日、運輸大臣に対して、定期航路事業の申請をなし、その主張の日、大阪―高松間の航路の免許申請書が四国海運局により受理せられその主張の日、八幡浜―三崎、八幡浜―三瓶、八幡浜―宿毛間の各航路の免許申請書が四国海運局松山支局によつて受理せられたこと、原告主張の日付で四国海運局松山支局長が原告の申請は新規定期航路事業と解される旨の文書を原告に送付したこと、原告主張の日、四国海運局長が原告の各申請航路は既存定期航路事業として処理しがたい旨の文書を原告に送付したこと、原告主張の日付で四国海運局松山支局長が原告の昭和二十四年十月十八日附提出申請書を、甲第二号証ノ一乃至四の書類を添付のうえ、原告に返戻したこと及び海上運送法施行当時、原告申請の前記各航路は休航中であつたことは認めるが、その余は否認し、四国海運局松山支局長は原告申請の八幡浜―三崎、八幡浜―三瓶、八幡浜―宿毛間の各航路は、海上運送法施行当時長期間にわたり休航状態にあり、既存航路としてその事業内容が明白でないので昭和二十四年十一月二日右三航路についてなされた原告の既存定期航路事業免許申請を却下し、原告の便宜をはかり、新期定期航路事業免許申請として受領したのであるが、原告が飽くまで既存として申請する旨主張するので、昭和二十四年十二月二十八日四国海運局長は原告申請の前記四航路は何れも既存航路とは認められないので、既存定期航路事業の免許申請としては処理しがたい旨原告に通知し、此の通知により高松―大阪間の航路の申請も却下されたのであつて、右通知は単なる解釈上の通知ではない。而して右却下通知は運輸大臣名義でなされていないが、其の補助機関たる四国海運局長及び同局松山支局長が大臣の命によりなしたものであるから、右は運輸大臣の既存定期航路事業免許申請却下処分として有効である。海上運送法附則第六項第七項は、同法施行の際現に定期航路事業を営んでいる者にのみ適用があり、原告は海上運送法施行当時である昭和二十四年八月二十五日前後には現に前記各定期航路は休航しており右事業は運営していなかつたからその適用はない。
政府が原告に油の配給をしなかつたのは臨時物資需給調整法の規定に基き、当時の燃料事情と海上運送の状況とを綜合考慮の結果当時の逼迫した燃料供給量下では、原告主張の航路運行に要する燃料油を配給するときは該航路よりも更に緊要な他の航路の運航を休止しなければならない結果となるので、原告の本件航路に要する燃料油配給を不要と認めたからであつて、不公平な取扱はしていないと述べた。(立証省略)
三、理 由
原告が海上運送法附則第六項の「この法律施行の際現に定期航路事業を営んでいる者」に該るか否かの点について判断すると、海上運送法施行の日たる昭和二十四年八月二十五日当時は原告の高松―大阪、八幡浜―三崎、八幡浜―三瓶、八幡浜―宿毛間の各航路が休航中であつたことは争ないところであり、成立に争のない甲第二号証ノ一、三、四証人青木良作(第一回)の供述及び弁論の全趣旨を綜合すれば、原告は右各航路について、終戦前から定期航路事業を営んでいたが、終戦後は右各航路中或航路は全然運航せず長いものでも四ケ月運航したにすぎず、休航中のまゝ本件定期航路事業の免許申請時に至つたがそれは海運局による燃料油の配給割当が右各航路については皆無のため止むなく運航を休止したものであることが認められる。原告は海運局による燃料油の配給割当が甚だ不当且不公平であつたゝめ右各航路についての配給を得られなかつたものであると主張するのであるが、成立に争ない甲第三号証、甲第五、六号証ノ各一、甲第六号証ノ二証人矢口順道、同青木良作(第一、二回)の各供述を以てしても未だ海運局の燃料油の配給割当が特に不当不公平であるとは認めるに足らず、他に之を認むるに足る証拠はない。却つて証人繁谷唯一、同井馬栄の各供述によると、四国海運局は吾国の燃料事情と交通事情を考慮のうえ、割当基準に従い燃料油割当をなしたものであり、原告に於いて最も熱望した高松―大阪間の航路については、既に多数の他会社の船舶が就航しておるうえ一航路についての油の割当総量が一定しているから更に原告の船舶を配船せんとすれば他船を減少せざるを得ず、しかも原告の船舶に比して他船がより優秀であつたから交通政策上後者を配船する方が有利であり、従つて原告の船舶の就航の余地無しと判断したこと、八幡浜―宿毛間の航路については当時盛運汽船の就航ありて旅客事情から考慮するも更に原告の船舶を就航させる必要なしと判断し、八幡浜―三崎線は、別に八幡浜汽船就航中にして、当時の燃料事情から、原告の船舶を就航させるは不可能なりと判断し、八幡浜―三瓶線は盛運汽船の外他に一船就航している関係上更に原告の船舶を配する要なしと判断し夫々原告に対し燃料油の配給をなさなかつたことが認められる。
斯様な事情からすれば海運局が前記四航路に対する配油をなさなかつたことは不公平な処置ではなく、公平な判断に基くものであり、従つて原告が右航路について燃料油の配給を得られなくとも止むを得ないと言はねばならない。而して海上運送法施行の際、天災地変とか、不法不当な強制とかによつて休航しているとか、極く短期間休航しているとかの極く限られた特殊事情のある場合は、休航中と雖も「現に定期航路事業を営んでいる」と解せられるが斯様な特殊事情なき限り、休航中のものは常に「現に定期航路事業を営んでいる」ものでないと解すべき処、原告の休航の原因は前記の如く、不公平ではない国家の施策により止むなく燃料油割当を得られなかつた為であり、加之前記認定の如く原告の前記航路の休航は長期間に亘つているという事情にあるから、斯様な事情は未だ右の特殊事情となすに足りないので、他に特殊事情のない本件に於いては、原告は海上運送法施行の際「現に定期航路事業を営んでいた」と解することは出来ない。仍つて同法施行の際現に定期航路事業を営んでいたことを前提とする原告の請求は他の判断を俟つまでもなく理由がないから之を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 加藤謙二 橘盛行 荻田健治郎)